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【源氏物語文中の花】  巻40 『御法』  桔梗・萩・etc  

        ★… 【 源氏物語文中の花 】  巻‐40  『御法』   桔梗・萩・etc  …★
◎ … この巻は紫の上の最期を語る悲しい巻です。
「若菜下」巻での発病以来5年目、病に伏す紫の上を源氏が見舞う場面がある。前菜には萩、ススキ、桔梗などが風になびき、御簾がかすかに揺れている。この場面の紫の上はまさに減紫(けしむらさき)と白畑よし先生のお言葉。滅び行く紫がこの巻の全体を吹く風の如く覆っている。
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紫上から花散里の御方に・・・
★文中)こと果てて おのがじし帰りたまひなむとするも、遠き別れめきて惜しまる絶えぬべき 御法ながらぞ 頼まるる 世々にとむすぶ 中の契りを。
 意)法会が終わって御方がそれぞれに永遠の別れのようで名残が惜しまれます。もうこれで、私がこの世で催す法会は最後と思われますが、この法会の結縁によって生々世々結ばれた貴女との縁が頼もしく思われます。
花散里から紫上に・・・
★文中)結びおく 契りは絶えじ おほかたの 残りすくなき 御法なりとも。
 意)立派な法会で結ばれました私たちの御縁は、後の世まで絶えることはありません。残りの命の少ない私のような、おおかたの身であっても。
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〓このお二人の歌が御法巻名になっています〓
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★文中) おくと見るほどぞはかなきともすれば 風に乱るるのうは露
 意)起きていると見えますのも暫くの間のことややもすれば風に吹き乱れるの上露のようなわたしの命です。
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荼毘にふされる前の白く輝く死顔の美しさを、まじまじと見入る夕霧。そばで茫然自失の源氏。
源氏51歳の秋。八月十四日の暁、紫の上は四十歳をすぎたばかりでした。

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「御法」の詞書きを見れば、狂おしい迄の乱れ書き文字が悲しみにうち震え砕ける思いが伝わります。萩の枝にとどまっているべくもない露にその命を思い秋風の立っている悲しい夕べであったから、最後の歌の露が消えてゆくように・・と終焉の様子。
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はかなく美しい命の終わりでした。細まりゆく紫の上の息遣いが絶え絶えに重なり合い、訴える如くに消えてゆく。感情の交感は絵巻の詞書きの中でも圧巻である。
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簡単に物語
大病以来、一時の危篤状態を脱したものの日増しに弱る紫の上。出家を願っていますが源氏は許しません。女三の宮の出家には同意し自らも出家を志している源氏ですが、紫の上と離れることには決心がつかないようです。
春・・・・。
紫の上は長年にわたって書かせておいた法華経千部の供養を思い立ち三月十日二条院に帝、夕霧、東宮、后の宮たち(秋好、明石)や花散里、明石の君などが参集して盛大に供養が行われました。死期の近いことを予感する紫の上は、それとなく別れをつげるのでした。
夏になり・・・。
紫の上の病はますます重くなり見舞いに訪れた明石の中宮に対し後事を託し思い出多い二条院は最愛の匂宮に譲ることを遺言します。
秋になっても・・・
かひもなく、 明け果つるほどに消え果てたまひぬ。病勢は思わしくなく、仲秋八月、明石中宮が病床を見舞った夕べ源氏に見守られ中宮に手をとられ、ついにその生涯を閉じます。
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放心したように紫の上を見つめる源氏、夕霧も一目もはばからずあふれる涙で紫の上を見つめる。死顔の美しさに目もくらむ思いがする夕霧は、あの野分の朝の垣間見以来、紫の上を見ることが無かったのです。源氏が夕霧に美しい紫の上を見せまいと極端に用心をしていたからですが・・・。
ひそかに慕い続けてきた夕霧、やっと近くで見ることが出来たのは空しく命絶えた姿でしかありませんでした。紫の上の死顔をじっと見つめる夕霧を、たしなめる力は、もはや源氏にはありません。

翌十五日の葬儀の日は、おりしも仲秋の名月の夜でした。源氏には月を愛でるゆとりなどありません。帝以下、致仕の大臣、中宮はじめ人々は紫の上の死を悼み、ねんごろに弔問しました。故人を偲び出家する女房たちも少なくありません。源氏も、この悲しみに堪えたのち、出家を果たそうと思うのでした。
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当時は妻がいつまでもその座にどっしりすわっていることは宗教的にも嫌われた時代、時機をみて出家するのが普通の習わしでした。紫の上は女三の宮の一件以来ずっと出家の望んでいました。病気になり、その願望は強くなるばかり、ですが、源氏は出家を許さないのです。紫の上を失いたくないからです。ですので、紫の上の死は源氏には大変大きな打撃となります。
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この物語の終わりに、語り手(紫式部)は・・・。
源氏を・・・千年も共にと契りかわしておられたのに、死に別れねばならぬとは、まことに残念なこと、今は極楽往生の願いが他の思いに紛れぬように一途に出家を思い立たれるお気持ちにはゆるぎもないが・・・。その後もなお、世間体を気にしている情けない源氏を容赦なく書いています。       
by hime-teru | 2008-12-16 22:52 | 源氏物語(巻31~巻40) | Trackback | Comments(0)